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〜街角ドキュメンタリー〜
素人名言劇場

【素人名言_ドキュメントNo.11】
名前:岩田さおりさん/27歳
インタビュー日時:2018年3月
インタビュー場所:池袋

(タイトルに「名言集」とありますが、今回は名言が特に無かったので割愛しました。恋に悩む女性のお話です。)

私は過去に『おっさんレンタル』に登録して1年ほど活動していたのですが、今回登場する岩田さんはその時に出会った人です。知らない方のために『おっさんレンタル』の仕組みをざっくりと説明すると。

おっさん(だいたい30~50歳の男性)が1時間/1000円で自分の時間を売り、お客さんのオーダーにこたえるという、ただそれだけのものです。私の経験では、そのオーダー内容は浮気の相談や庭の草むしり、スニーカーショップの抽選券をもらうための行列並び、三ツ星レストランで一緒にご飯を食べてほしいなど本当にさまざま。もちろん犯罪に関わるようなことはNGですし、自分には向いていないと思うようなオーダーは断ることもできます。

ちなみに私はパソコンや機械関係に明るくないのでその辺の分野に関する業務は全てNGとさせていただき、それ以外は仕事に支障が出ない程度に、できるだ応えるという形で活動していました。そんな中、岩田さんからメールで届いたオファーの内容は、3ヶ月後に挙げる結婚式で着るウェディングドレスを一緒に選んでほしいというものでした。


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個人的に、ウェディングドレスは夫婦で選ぶものだとなんとなく思っていました。ただ岩田さんの場合は、彼の仕事の調整がつかないから代わりに一緒について来てほしいということでした。まあ確かにそんな事もあり得る。でももし私が女性で同じ立場だったら、どんな人が来るかもわからない『おっさんレンタル』でお願いをするくらいなら身近な友達についてきてもらうか、一人で選ぶななどと考えました。でもこんな機会も滅多にないので、とりあえず引き受けることに。3日後の18時に池袋にあるお店の前で待ち合わせすることにしました。

当日待ち合わせ場所であるお店の入り口に立っていると、前方からマスクをした小柄な女性が小走りでこちらへ向かってきます。「あの、レンタルの大沢さんですか?」と言うと、マスクを取りながら話しかけてきました。「あ、連絡をさせていただいた岩田です。遅くなってしまってすみません」

岩田さんの顔は女優の柴咲コウさんに似た、目鼻立ちのはっきりとしたすごい美人でびっくり。思わず岩田さんって芸能のお仕事とかされてます? と聞いてしまったほどです。そんな私の発言に岩田さんは大仰に謙遜しながら「化粧品会社で事務をしている普通のOLですよ」と、申し訳なさそうに話します。そして「今日は2時間でお願いしようと思っているんですけど、お代は今お支払いした方がいいですか?」と、たずねてきました。

私は特に気にしていなかったので「今じゃなくても大丈夫ですよ、落ち着いた時で」と言うと、岩田さんは「そうですか。じゃあ帰りにお支払いしますね」と、取り出そうとしていた封筒を改めて、グレーのゴヤールのトートバッグの中にしまいました。じゃあ行きますか、と私が言うと岩田さんは「そうですね。ただ店内ではあくまで夫婦という体でお願いします」と、念を押され店内へと向かいました。

フロアはお店というよりも展示場といった趣きで広々としており、そこにはウェディングドレスだけでなくシューズやアクセサリーといった、ドレスに関係する様々なものが大量に展示してありました。平日の夕方にも関わらず、多くのカップルが訪れているのを見て、これだけカップルがいれば女性一人でドレスを選ぶというのもちょっと酷だなと思い、私をレンタルした理由が何となくわかりました。カップルのように振る舞うべく、店内では腕を組みながら回ることにしました。ただ、美人な岩田さんと腕を組むのはちょっと緊張もしましたが。

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そして色々と見て回ること数十分後、気になるドレスがあるということで岩田さんがウェディングドレスを試着することになりました。その際、腕を組んで歩くことと同じく、カップルのように振る舞うもう一つの振る舞いとしてお願いされたのが写真を撮ること。ウェディングドレスを試着するたびに前後左右、様々な角度から撮って欲しいというものでした。

赤いロゴマークが際立つ〈Leica〉と刻印されたシルバーのデジカメを受け取ると、何着も嬉しそうに試着をする岩田さんを私は撮りまくりました。担当したお店のスタッフの方から「試着の段階で撮影をされる旦那さまは多くいらっしゃいますが、ここまで何枚も撮る方は珍しいです」と言われるほどです。

約2時間ほどかけて、10着くらいの衣装に袖を通した岩田さん。最後に繊細なレース使いが美しいドレスの試着を終えるとき、近くにいたスタッフさんの目を盗んで小声で話しかけてきました。

「レンタルの時間、そろそろ(終了)ですよね」

私は、岩田さんがまだ試着をされたいならお付き合いしますよと答えました。すると岩田さんはそうじゃないんですと言って続けます。

「もしお時間があればお茶でも付き合ってくれませんか。もちろんご馳走しますので」

私は特に用もなかったので、付き合うことにしました。お店を出た後、カフェを探してしばらく歩いていたのですが、岩田さんが「お酒飲んでもいいですか?」というので、チェーンの居酒屋に入りました。


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一杯だけ付き合ってくださいというので、岩田さんはビール、私はハイボールで乾杯をしました。

そこで結婚までの経緯を詳しく聞いたところ、彼氏さんと出会ったのは4年前に大学時代の同級生が開催した恵比寿での飲み会。俳優の松田翔太さんに似たモデルのようなルックスがドンズバだったらしく、岩田さんが一目惚れ。しかし当時の彼は学生時代から付き合っていたという、大好きだった年上の彼女にフラれたばかりで、恋愛に対してはかなり後ろ向きだったそう。

でも岩田さんの猛アタックの末、出会ってから3ヶ月後にお付き合いがスタートしたのだそうです。そして付き合ってから1年後、岩田さんから逆プロポーズをして見事にゴールイン。岩田さん的には彼からの告白を期待したそうなのですが、彼の性格的に待っていたらいつになるかわからなそうだったので強引に攻めたそうです。

彼は雑誌の街角スナップでは結構な確率で大きく掲載されるほどおしゃれ上級者で、服装にそこまで頓着していなかった岩田さんは、彼からファッションの”いろは”を教わったと言います。「服だけじゃなくて音楽やインテリアにも詳しくて料理も上手で、しかも超優しい。もう非の打ちどころがない素敵な人なんです」と、岩田さんはずっとのろけっぱなし。

身振り手振りを交えながら嬉しそうに話す岩田さんの表情は幸せの塊みたいで、きらきらと輝いていました。アルコールの勢いも手伝って、お店でドレスを選んでいるときよりもかなりリラックスしている感じでした。私は、半ば呆れ気味に「はいはい」と赤べこのように相槌を打っていました。


(前編終了)

結婚式を直前に控えた女性は、こんなにもキラキラしているものなのかということを思い知らされました。ただこの後、予想もしなかった展開が待ち受けていたのです。後編に続きます。


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