〜街角ドキュメンタリー〜
素人名言劇場
【素人名言_ドキュメントNo.2】
名前:水上清彦さん/53歳(男性)
インタビュー日時:2016年12月 深夜1時ごろ
インタビュー場所:お茶の水
移動中の車内で、タクシーの運転手・水上清彦さんを直撃しました。俳優の吹越満さん似の渋イケメン。ぼくとつな雰囲気を醸す水上さんが運転手になるのには、それなりの理由がありました。
◎このお仕事はいつからですか?
6~7年前からです。それまではソフトウエア開発のエンジニアをしていました。専門学校を卒業してそれからすぐに就いたので、かれこれ25年くらいですかね。
◎当時はエンジニアって珍しかったんじゃないですか?
そうですね。もともとコンピューターに興味があったので、田舎から出てきて、専門学校もそういう分野の学校に通っていました。ただでも、当時のコンピューターって言ったらNECのPC-98とかHITACHIのハイタックMシリーズしかなかった時代でした。それでもその当時は最先端のマシンでしたからね(笑)。
◎長年つとめたエンジニア職はなぜ辞めたんですか?
ある程度キャリアを重ねていたので、自分ではどの現場に行ってもエンジニアの仕事であれば何でもできると思っていたんです。それなりにプロ意識もありましたしね。でも景気が悪くなったときに上司から「営業の仕事もしろ!」って言われて。さすがに営業は無理かなって。
◎でも会社には営業担当者がちゃんといたんですよね?
もちろんいました。ただうちの営業方針が、ほかの会社が流した有益な情報に後から飛びついてマッチングさせるやり方だったので、そうなるとどうしても商流が下っていうこともあって、なかなか成果に結びつかなかったんですよ。営業方針を見直して新たな営業専門の人員を採用するのがいいということは誰が見てもわかっていたんですが、会社はそれをせず、ほかの課の人員を一時的に動員して営業にあたらせたわけですよ。
小さな会社でしたから、まず社長が先頭にたって営業をすべきだったんですけどね。当時、私も一応はやってはみたんですけど、素人がやったってうまくいくわけがないじゃないですか。ましてや私は弁がたつ人間ではないですから。それがイヤになって辞めちゃいました。
◎退職してからすぐにタクシーの運転手に?
いえいえ。今後のことを色々と考えつつ、少しぶらぶらしていました。今まではエンジニアという自分の好きなことを仕事にしてきたので、それ以外で何かほかに好きなことって何かなって考えたときに、自動車の運転くらいしかないかなって思って。それでタクシーの運転手になりました。
◎わりとシンプルな動機だったんですね。
仕事なんて何をしてもある程度はきついでしょ。だからあまり深く考えずに決めました。あと運転するだけなら人と話をしなくても済むかなと思って。ほら、さっきも言いましたけど俺、口ベタですから(笑)。
◎それでも仕事をしていれば人と話もしなければならないときや、心底いやになることってあるんじゃないですか?
細かいことはいろいろあるんでしょうけど、最近はわりと忘れてしまうんですよ。イヤな客は乗せないようにしています。例えば今日はものすごく寒いじゃないですか。こういう日は飲んでる人も寒さで目が覚めるのか、泥酔者っていうのはなかなかいないものなんです。だから今日は比較的乗せていたりとかしてね。
◎心底落ち着くときってどんなときですか?
ありきたりですけど、一番気持ちいいのは朝起きて、二度寝するときですね(笑)。いつも朝5時45分に起きて、会社には8時くらいまでに行くっていう生活ですね。まる1日運転して翌日は休みっていう流れなので、よく「大変そうですね」ってお客さんから言われますけど、私からしたら毎日満員電車にのって通勤する方が耐えられないですわ(笑)。
◎若いころの自分に言ってやるとしたら、何と声をかけますか?
専門学校に入る前の高校時代の自分に、しっかりと勉強をしておけっていうこを言ってやりたいですね。もうつねに勉強しろって。学歴はもちろん、色んな知識を身につけておけって。そうすれば仕事にしても何にしても、人生の選択肢が増えますから。例えば英語が喋れるだけでも仕事を選ぶ上では全然変わってくるでしょ。こんな年齢でも同時通訳ができるなら引く手あまたでしょうし。何よりそういう仕事は道具に頼らず、身ひとつで生きられるからね。
◎将来の夢はありますか?
ないですね(笑)。この年になるとぽっくり死にたいっていうくらいで。せいぜい宝くじでも当たってくれればっていう感じです。
◎ご結婚は?
独身です。
◎それこそ結婚への夢みたいなものはないんですか?
今さらですよ(笑)。だってこの年齢で女性に相手にされるわけもないし、今さら同世代の女性とどうこうなろうなんて思えないですし、何より経済的に養っていくだけの自信もありませんから。何をするにも自由な今の生活が最高です。
最初こそ「私は話下手だからと勘弁してください」と言いつつも、終始笑顔でお話をし続けてくれた水上さん。降車直前に、あんまり話が上手だったので、接客業も向いているのではと水を向けると「いやいや。これが限界です」と苦笑いまじりの照れた表情がとても印象的でした。