〜街角ドキュメンタリー〜
素人名言劇場
【素人名言_ドキュメントNo.5】
名前:辰巳典子さん/50歳
インタビュー日時:2017年5月、深夜2時ごろ
インタビュー場所:恵比寿
今回の素人さんは深夜、恵比寿駅西口のタクシー乗り場で待機をしていた女性タクシードライバーの辰巳典子さん。すごい童顔なんですと謙遜していたが、その若々しい表情はとても50歳とは思えない。乗車後の最初の信号待ちの間「今までお仕事ですか」という辰巳さんの質問を皮切りに、会話がスタートしました。
◎タクシーのドライバーさんとしていつから働いているんですか?
今、ちょうど丸1年です。それまではずっと専業主婦でした。
◎それまでずっと主婦だった人が、簡単に運転手になれるものなのですか?
ほかはどうだかわかりませんが、うちの会社に関してはすぐになれますね。面接を受けてよほどのことがない限りは、大抵なれます。そこから二種免(第二種運転免許)をとらせてもらって、研修を二ヶ月間受けるという流れです。
◎ほかにもたくさん仕事がある中で、なぜタクシードライバーを選んだのですか?
車の運転がもともと大好きだったんです。あと車自体も小学校のころから好きだったんですよね。当時の私の部屋にはスカイラインのポスターが貼ってありましたから(笑)。
◎では実際にドライバーとしてやってみてどうですか?
本当に運転が好きなので楽しいですね。自分でいうのもなんですが天職だと思います。もちろん扱いが大変なお客さんとかもたまにはいますけど(笑)、それでもやり甲斐があります。
◎今まで専業主婦だったのに、またなぜ仕事をすることにしたのですか?
去年離婚をして、私が娘を食べさせていかなきゃならなくなったんです。
◎旦那さんからの養育費は?
ゼロです。しかも彼は、私が子供と一緒に家を出てすぐ、家を勝手に売っぱらって南国の離島に逃げてしまいました(笑)。
◎えっ、どうしてそんなことになったのですか?
自分の会社をもっていたのですが潰れてしまって。そのときに作った借金がまだ返せていないから、単に知り合いのいない場所にいきたかったのだと思います。だから養育費なんて払えませんよ。訴訟の関係で夫とは直接会っていなくて、弁護士さんを介してという感じです。この前数年ぶりくらいに顔を見て話しましたけど、だいぶやつれていました。
◎会社が危ないということを、辰巳さんは知っていたのですか?
なんとなく、ですね。ただ彼も自分で会社をやっている間は生活費はいただけていましたし、何不自由なく生活できていたのでそこまで深くは考えていませんでした。でも破綻する少し前に何かおかしいなっていう時期が何度かあったので、そのときに「苦しかったら私も働くよ」って言ったんです。
でも彼は、私が働くことに大反対の人で「生活に困ってないんだからいいだろう」って。私も結婚をする前はずっと働いていたので働きたかったんです。いわゆるヤムセン(やむなく専業主婦になった人のこと)っていうやつですね。だから毎日、家でお皿を洗ってるときに「何で私は大学まで出してもらったのに、家でお皿を洗っているんだろう」って思っていました。
今思えばそれもよくなかったのかなって思いますね。本当に働きたかったら離婚してでも働くべきでした。当時は子供がいるから(外で働けない)って自分に言い訳をしていましたけど、今まさに同じ状況ですからね(笑)。
◎お子さんは今いくつですか?
15歳です。私の埼玉の実家に一緒に住んでいて、そこから都内の学校に通っています。彼女は何も言いませんが、おそらく「何で自分だけがこんなめにあわなくちゃいけないんだ」って思っていると思うんです。それが不憫でならないですね。
◎旦那さんは娘さんに会いたいって言いますか?
言います。だから春に一度会わせたんです。そうしたら向こうで色々遊びに連れていったみたいで、すごい楽しかったみたいです。娘も喜んでいました。
◎部外者の立場から言わせてもらうなら、じゃあ(旦那さんも)働けばいいのにって思ってしまいます(笑)。
ほんとに(笑)。でも中途半端に働いてしまうと収入があるとみなされてお金を返さなきゃいけなくなるから、そうなると養育費を払わなきゃいけなくなるみたいです。
あと長年わずらっている持病もあるので、それが悪化してうつ状態になって「この人は働くことができません」という病院からの診断書までちゃっかり出してもらってて。そんなに細かな手続きをするヒマがあるなら働けばいいのにって私も思っています。
今は離婚訴訟中でも婚姻関係はまだ破綻していません。向こうはまだ別れたくないみたいで、断固として戦ってきます。離婚が成立すれば親権も旦那のものではなくなるので、簡単には娘にも会えなくなりますから。ただ私は復縁することはまったく考えていないですけど。
◎将来の夢はありますか?
結婚もこりごりですし、個人的なことは何もないです。とにかく娘を立派に育てあげて、彼女の夢を叶えてあげることです。昔から海外に留学したいって言っていて、彼女はそれに向かって今も一生懸命頑張っているので、私もなんとかしてその夢を叶えてあげたいんです。
こういったら何ですけど、今は経済的にきついですが、娘のために大好きな仕事をがんばってやれているので、結婚して家にいたときよりも人生に充実感があるような気がします。
苦笑いを浮かべながら元旦那さんの話をする間に、娘さんがEXILEのファンであるとか、志望校に合格したことなどをうれしそうに語る笑顔がとても印象的でした。子供のいない私にとってはまだちょっと理解しがたかったですが、いつかこんな気持ちになることがあるといいなと思いました。