〜街角ドキュメンタリー〜
素人名言劇場
【素人名言＿ドキュメントNo.12】
名前：鈴本康太さん／19歳
インタビュー日時：2018年７月
インタビュー場所：新宿
今回の素人は19歳の大学生１年生、鈴本康太（仮名）さん。地元での１年間の浪人生活を経て、この春から青山学院大学に通っているという新大学生。長く辛かった受験勉強から解放されて、花のキャンパスライフを謳歌していそうなものですが。待ち合わせ場所に指定された新宿アルタの前に行くと、アバクロの白のポロシャツにベージュチノ、白のコンバースを履いた鈴本さんがすでに待っていました。ぱっと見、日テレの新人アナウンサーみたいというのが第一印象。私があいさつをすると「あ、大沢さんですか」と言い、深々とお辞儀をしながら「こちらこそよろしくお願いします！」と元気に返してくれました。
ーー近くのカフェに入って、メニューを眺めたのちアイスカフェラテを注文する鈴本さんを改めて見てみると、顔や雰囲気は渡辺徹と榊原郁恵の長男に似ていて、笑うと白い歯が際立つ爽やかな好青年。綺麗に整えられた短髪も清廉さを際立たせています。
「実は、生まれてから一度も女性とお付き合いをしたことがないんです。もちろん女性経験もありません。もともと学校でも目立つグループよりはヲタクの集まりといいますか、目立たない存在でした。大学生になった今でもその辺は変わっていません。しかも高校が男子校だったもので、女の子に対する免疫が他の男性よりも低くて、話をすることも苦手といいますか。進学先に青学を選んだのは、すごく華やかなイメージがあって女子アナも多く輩出しているくらい綺麗で清楚な感じの人が多いですし、自分の中では”リア充の巣窟”みたいな感じで、青学に入れば人生変われるかもって思ったんです。でもいざ入学をしてみると、高校時代の生活とあまり変わらなくて。大学でも目立たないから友達もいないので合コンに誘われることもなく、仮に自分で主催ができたとしても連れていく友達がいないっていう。だからそういう部分をどうしたらたら直せるか」
ーーこうして話を聞いている限りでは、話し下手な人とは思えません。「それは大沢さんが男だからですよ」と答える笑顔交じりの爽やかな表情は好感が持てる。そんな鈴本さんに改めて相談内容を聞くと意外な答えが返ってきた。
「童貞を捨てたいんです。女の子と気軽に話したり彼女を作ることよりもまずそっちが最優先で」
ーー童貞を捨てるだけならソープにでも行けば解決しそうなものですがと言おうとしたのですが、こちらの気持ちを察してか、鈴本さんが続けます。
「もちろんそんなのは風俗でどうにでもなることはわかっていますが、簡単にすませたくないんですよ。童貞をこの年齢まで続けてきたので、自分の納得ができるかたちで捨てたいんです」
ーー運ばれてきたアイスカフェラテをストローで一口含んだ後、「でもこればっかりは相手がいて初めて実現できることなので、なかなか難しいんですよね」と自嘲します。鈴本さんが思う自分の納得ができるかたちというのはどういったものなのか聞いてみると…。
「ぶっちゃけナンパをしてみたいんです。そしてナンパを成功させてその流れで童貞を捨てたいんです」
ーーAVみたいだなと思い茶化そうと思いましたが、鈴本さんは真剣そのもの。すると彼が抱く”大人観”みたいなものが垣間見えました。
「僕、将来は責任感のある人間になりたいと思っているんです。そのためにはまず、自分に自信を持つことが必要だと感じました。その自信を持つための一環として必要な経験は、ナンパして成功することであり、童貞を捨てることだと思い至ったんですよ。ヤリチンの人が聞いたらバカみたいですよね、でも本当に真剣なんです。道行く女の子に何の違和感もなく声をかけることができればそれも自信につながるし、その流れで童貞を捨てることでさらに強い自信に繋がると思うんです。今は全く女の子と会話ができませんが、そんな自分を変えたいんです。僕はモテる男に憧れているんですが、その一人が福山雅治さん。彼がラジオで「ストリートナンパが成功したら相当な自信に繋がる」って言ってて。あれだけモテてる福山さんが言うんだから間違いないと思うんですよ。今日これから僕がナンパをするので、大沢さんには見守っていて欲しいんです。ナンパに失敗したときに誰もいないと落ち込むけど、誰かに駆け寄って「ダメだったわ～」って言えれば救われるじゃないですか（笑）」
ーーそう話し終わると、鈴本さんは持ってきたカバンの中をごそごそと漁りだし、何回も読み返したであろう付箋を貼りまくった２冊の本を出しました。受験用の英単語本らしきその本はともにナンパの指南本。
「かなり読み込んできたので、声をかけるべき女性の外見、タイミング、声の掛け方などは全てインプットしてきました。なのであとは実践あるのみ。今日新宿で待ち合わせにしてもらったのも、新宿駅南口のGAPの前の道が一番成功しやすいということだったので、そこでナンパをしたかったんです。もちろん今日童貞を捨てられるとは思っていません。連絡先の交換だけでもして、近い将来やれるように努力したいんです」
その後、私と鈴本さんはGAP前の道へ移動しました。平日の昼間でしたが路上は人で溢れかえっていました。最初は友達のふりをしてそばで見ていてほしいという鈴本さんからの要望にお応えし、私もナンパに参加しました。路上に立って５分、いつ誰に声をかけてもいい状況でしたが鈴本さんは動きません。最初に話したカフェからナンパ場所までに移動をする際、どんな女性に声をかけるのか聞いた時は「自分がやりたいと思った人に声をかけます（笑）！」と意気軒高に話していたのですが、それっぽい女性が近づいても目で追うだけで動きません。どうやら二の足を踏んでいるようです。とりあえず声をかけないとはじまらないですよ、というと。
「わかっているんですけど、いざガチでナンパとなると緊張しちゃって…」
その後、数分間逡巡したのち、とうとう鈴本さんが動きました。私も少し遅れて彼に同行しました。背の高いすらっとした、どこか滝沢カレンさんに似たその人は、白シャツにデニムというラフなスタイルで、GAPの袋をぶら下げてこちらへ向かってきます。「すみません、ちょっといいですか」と、鈴本さんは話かけますが、まるで鈴本さんが存在していないかのように、滝沢さんは歩みを止めることなくずんずんと進み、とうとう人混みの中へと消えてしまいました。デビュー戦でかなりクールな対応をとられた鈴本さん。かなり落ち込んでいるかなと思いきや…。
「やっぱり現実は厳しいですね（笑）。でも今のでだいぶ自信になりました。大沢さんは僕の側から離れて、遠くで見守っていてください。ちょっと一人で頑張ってみます」。
やや興奮しつつ、どこか引きつった笑顔でそう話しました。私は少し離れた場所で見守ることにしました。
その後、30分ほどで7～8人に声をかけていましたが、一向に成功しません。中には歩きながら笑顔で話しを聞いてくれる人もいましたが、連絡先を聞き出すまでには至りませんでした。時折、距離を置いて戦況を見つめる私に向かって、大げさに肩を落とし苦笑いを向けてくる鈴本さん。なんだか少し楽しんでいる感じがします。その後、１時間ほど声をかけまくりましたが全くダメです。私が見たところ、鈴本さんはイヤホンで音楽を聴きながら歩く人に声をかけることが多く、話しをするにはまず、イヤホンを外してもらい、そこから会話をするという流れになるため、ハードルが少し上がっているように感じました。私は少しでも成功確率を上げるために、イヤホンをしていない人に照準を絞る提案を鈴本さんにしました。
「たしかに。僕が「やりたい」と思う人が、たまたま音楽を聞いている人なんですかね（笑）。音楽を聞いていない人を探しますね」
それから「すみません、お買い物ですか」「ちょっとお話しを聞いてくれませんか」「白い服を着てる人に話しかけているんですけど」「学生を対象にしたアンケートを…」など、とにかく声をかけまくる鈴本さんですが、女の子は立ち止まってすらくれません。その後鈴本さんは「やりたい」という気持ちを捨て、連絡先を交換する作戦にシフトチェンジしていました。それから、私が目視で数えて70人くらいに達したころでしょうか。きゃりーぱみゅぱみゅさんに似た、ちょっと内気そうな女性に話しかけたところ立ち止まってくれました。鈴本さんは身振り手振りを駆使し一生懸命話している様子で、女の子の方にも時折笑顔が見られ、雰囲気的には悪くなさそうです。そして最終的にお互いにスマホを取り出して、連絡先の交換をしているようでした。私はダッシュで二人のもとへ駆け寄り、彼女に話しを聞きました。
「これナンパだったんですね（笑）。いきなり話しかけられてちょっとびっくりしたけど「アニメについて聞きたいことがある」っていうことだったので、私もアニメは大好きだったので、立ち話くらいならいいかなと思って話しました。話していて嫌な気はしなかったですし、むしろ楽しかったですよ。あ、連絡先の交換ですか？ アニメ好き同士で友達になれそうだなって思ったので、ライン交換くらいならいいかなって。私も地方から上京したばかりで友達もいないんでちょうどよかったです。最悪、嫌だったらブロックすればいいですし（笑）」
彼女に丁寧にお礼を言って別れた直後、鈴本さんは私にハグをしてきました。
「こんな僕でもやればできるんですね。今日の経験は自分が思ってた以上に自信になりました。本当にありがとうございました。この熱が冷めやらないうちに、明日またこの場所で挑戦してみるつもりです！」
「めちゃくちゃ疲れたけど、達成感がハンパないっす！」と、やや上気しながら語ると鈴本さんは、ぬるくなったお茶を一口のみ、さっきまで自身が格闘していた場所を、数分間無言で眺めていました。そして「今日はありがとうございました！」とお礼を言い深々とおじぎをすると、「今夜彼女にラインをします！」と言う言葉を残し、駅へ向かって小走りで去っていきました。
（まとめ）
遠目で見ていても、声をかけ続けていくにつれて鈴本さんが徐々にたくましくなっていくと言うか、男らしく（？）なっていくさまが、目に見えて伝わってきました。帰り際なんかは、なんかちょっと一皮むけた感がありましたし。どんな手段でもいいから単純に「自分に自信を持ちたい」と思うときがあれば、ナンパという手段は意外と有効なんじゃないかなって感じました。